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【イタリアとの出合い3】〜運命の出逢い〜

イタリアとの出合い3

僕はローマにて働くことを決意した。

探せば何かしら見つかるだろう。楽観的だがそう考えていた。

「意思のある所に道は開ける!」である。

 

ローマの街を歩くと、ときおり寿司レストランの看板を見つける。僕はその度にメモを取った。

可能な限りたくさんのレストランを見つけて後でまとめて電話をかけてみようという作戦だった。

そうしてしばらく歩いていると、ある時僕は目を疑うものを見つけた。

日本ではよく知られたアレ。

しかしまさかこんな場所にあるなんて…!!!

 

それは、あの三越だった。そう、あのデパートの。

重厚な歴史のありそうな大きな石の建物、バロック建築と言うのだろうか、その前に堂々と看板が出ていた。

ローマ三越

ローマ三越

こんな所で日本のデパートがあるものかと興味深くなり、中に入ってみた。

1階と地下1階に広がるスペースには、決して日本のように広くはないが、様々なセレクトされたイタリアの名産品が置かれていた。

日本人目線で日本人ウケするようなものが置かれ、日本語でサービスが受けられた。

ローマ三越店内

また免税品の手続き、日本への配送サービス。

なるほど、誰がイタリアに来てまで日本のデパートに入るのかと思ったが、旅行で来た人たちにとっては安心してお買い物ができるいいサービスかもしれない。

店内はツアー客で賑わっていた。

僕は奥まで進むと休憩スペースを見つけ、そこで一休みすることにした。

求人広告

休憩スペースの脇にはかの有名な真実の口の模型があった。

行けなかった人たちが手を突っ込んでいたので僕も幸運が舞い込むように手を突っ込んだ。

本来の目的とは異なるが。(笑)

街を歩き通して足が疲れていたので、この休憩スペースは嬉しかった。

無料で水が置かれていたり、日本人的優しさの配慮が嬉しかった。

すると、そこにフリーペーパーが積まれているのが目に入った。

「Come va」というタイトルで、見開き新聞サイズでカラー8ページ程だった。

そこには、現地で滞在している日本人がイタリア生活で知った事、感じた事や、料理の事、またイタリアのニュースなどが日本語で載っていた。

旅行者向けの情報誌というよりかは、現地に滞在している日本人同士向けの情報誌だった。

僕はおもむろにパラパラとページをめくっていくと、その最後のページの端っこに小さく載っていたある欄に目がいった。

それは、求人広告だった。

なんと!!!僕は一瞬で目が輝きに満ちた!

 

そこを食い入る様にみると4、5社ほどの求人が出ていた。

それらは予想していた通り、ほぼ寿司屋からの求人だった。

僕は心の中でガッツポーズをした!

しかし、1社だけ別の会社があった。

そこには、『写真撮影、動画撮影、旅行コーディネート、企画』なるものだった。

寿司屋もいいけど、こちらの方が面白そうだなと直感的に感じた。

もともと僕は専門学校に行っていた時、映像関係の学校に行っていたのでこういった事に興味があった。

『よし、では最初にこちらに連絡してみよう。それでダメならば寿司屋だ!』

僕は調子よくそんな風に考えたのだった。

ある会社との出合い

僕は外に出て公衆電話を探すと、その求人欄にあった映像関係の会社へと早速電話をかけた。

受け取ったのは男性の声で、イタリア語と思わしき言葉で話しかけられたが、こちらが日本語で「もしもし」と言うと日本語に切り換えて話してくれた。

求人広告を見たことを告げると、喜んで話を進めてくれた。

僕はしかし、一つだけ確認しておかなければならない事があった。

それがビザの問題だ。通常、労働ビザなどがないと働けない。

小さな会社や個人経営の店などは気にしないとは言うが…。

そして僕は旅人だ。言わば住所不定の浮浪者である…。

その事を素直に伝えると、その人は、軽く笑いながらそれでもとりあえず一度会ってみようと話を進めてくれた。

そしてこの後そのまま会う事となったのだった。

『なんて流れだろう…!!』

その後ローマの地下鉄を乗り、指定された駅で降りた。言われた出口から地上へと上がり、目印となっている建物まで来た。

そこでもう一度公衆電話から電話をかけると、先ほどの電話口の男性が降りてきてくれた。

風変わりな社長

その男性は、白髪混じりの中肉中背、60歳手前といったところか。

精悍な顔つきをし、鋭い目つきをしているが優しい雰囲気をも纏っていた。

どうやらこの方がこの会社の社長さんのようだ。

僕らは近くのカフェへと移った。

 

社長さんは優しい口調で、僕の話を聴いてくれた。

旅してきた事、そもそものきっかけ。僕は自分の通って来た道、見て来たもの感じて来たものなどを端的に話した。

社長さんは終始ニコニコと聴いていてくれていた。

 

その後、彼自身も少し自分の話をしてくれた。

20代の頃に日本を飛び出し、ヨーロッパで一旗あげてやろうと意気込んで来た事。当初はパリで事業をやり出し、そしてローマへと移って来た事。

時はバブル絶頂期の日本である。多くの日本人旅行客がヨーロッパに来たようだ。そこでビジネスチャンスを感じ、色々な事を試した事。

多くの出会い、別れ、苦労、挑戦、喜び、挫折。
とうてい一言では語れない多くの出来事があったようだ。そして、これからの展望や夢などを意気揚々と語ってくれた。

彼は話している中で強く言葉にし伝えてくれた信条があった。

それは、『人は全てダイアモンドの原石だ。だから僕は皆にチャンスを与える。人は磨けば必ず輝く』

彼の目には揺るぎない力強さがあった。

若い自分にはこの言葉の真意はまだまだ理解しきれなかったが、それでも何か大きな勇気を与えてもらったのだった。

 

すると、彼は僕に簡単でもいいから履歴書を書いて欲しいと言った。

しかし僕は紙やノートがなくて、代わりにそこに敷かれていたカフェのテーブルペーパーがあり、その裏に自分の経歴を書いたのだった。

そして、社長さんから『明日から来れる?』と言われた。

僕は驚いた。彼はすでに僕の事を雇ってくれる気満々だったのであった。

『とりあえず一ヶ月でいいからやってみようか』

そう言われ、僕は元気よく『はいっ!』

と答えたのだった。

 

【イタリアとの出合い4へ続く】

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