『ジプシーに注意しなさい』
とは、ヨーロッパなどを旅行すれば誰でも一度は聞く言葉です。
それは実際にスリや窃盗をしてくるジプシーは多いからですが…
けれどこのジプシーってなんなのだろう?悪い人たちなの??
放浪の民?音楽やダンスで有名?占いをする人たち?
しかし日本には存在しない為、ジプシーと言われてもいまいちボクらにはピンとこないのではないのでしょうか?
今回はそんな知られざるジプシーの実態について調べてみたいと思います。
目次
ジプシーは悪者!?すりに注意!?
ジプシーとはいったい何者なのだろう?
今回も歴史の事については、物知りウメさんに聞いてみよう!
- ジプシーとはいったい何ものなんだろう?
- よく、放浪して生活しているイメージもあるが、それはなぜいったい?
- どうやって生きている人たちなの?
『ジプシー』とは現在差別語に指定されているため、『ロマ』という呼称があります。(またはロマニー)
ここからはロマと呼びます。
ロマ(ジプシー)のルーツはインドにある!
ロマは、西暦1000年ごろ、インドの北西部で争いや飢饉などでやむなく逃げることを余儀なくされた人々である。
西方へ移動していき、ヨーロッパの文献によるとおよそ西暦1200年頃あたりで初めてのヨーロパでの目撃情報がある。
(時期については諸説あり)
彼らの多くは、馬車に荷物を詰め一家で旅をしていた。
収入の手段は、歌や踊りをし、馬のブリーダーや薬草売り、占いにも秀でていたとされる。
ロマたちは家族を大切にし、自らのコミュニティーを大切にした。
しかし、移動した先の地でも自分たちのコミュニティーを崩すことなく、それは次第に地元の人々からの不信を買い、その地を追い出されることとなった。
こうしてヨーロッパの多くの地域に進出して行ったが、ロマたちは多くの場所で煙たがられる存在となって行ったのだった。
これはそのままロマの苦難の道の始まりだった。
ロマはその歴史の中で、多くを迫害されて生きてきた。
「得体の知れない」、「黒魔術を使う」、「伝染病を撒き散らす」、「劣等民族」などと言われ、処刑されたり奴隷として捕らえられたりと、人々から忌み嫌われる存在となって行った。
そしてナチスドイツのユダヤ人の大量虐殺。じつはそこに多くのロマも含まれていたことはあまり知られていない。
その数、五十万人〜百万人とも言われている。
透明な存在のロマ達
ロマ達は、その移動型生活を繰り返していたために、特定の社会に属してこなかった。
それは現在でも続き、基本的に自身のコミュニティー内で生き、結婚もその中でする。
また、子供が生まれてもその地で出生届を出さない。
すると公的なサービスや医療、教育を受けられない。
それがまた、新たな世代が新しい生活を手にすることなく、今までと同じような環境・価値観の繰り返しとなる。
それが未だに続く差別に繋がり、悪循環となってしまっている。
また定住しているロマ達もいるが、その長い歴史から、人々の差別意識は簡単には拭えきれない。
学校に通うロマ達の子供もいるが、たいていにおいて「いじめ」に遭っているようだ。
その為に学校に行くのを嫌がる子達が多い。また多くの国において、ロマに補償をしている国はなく、政府も対策などを取らずに見て見ぬ振りをしている場合が多い。
現在のロマの血を引く者達は、自分がロマであることを知られると差別されることを恐れ、名乗り出ることは少ない。
その為に国勢調査でもロマの正確な人口を把握できていない。
全世界にロマは1000万人〜2000万人ほど存在するのではと推測されている。
「ジプシー」という名前の由来
文献によるとフランスに現れた彼ら、自分たちのことを差別されることを恐れ、当時民族的に優位のあった「エジプト人」だと自らを名乗ったそうだ。
それが時間と共に名前が単調化され、ジプシーという言葉ができたようだ。
「Egyptian」(エジプシャン) → 「ジプシャン」 → 「ジプシー」
ロマの現代の生活
年々厳しくなっていく彼らの生活。
それは彼らだけに限らずに、社会全体が不景気だったり、政治、経済、移民に対する風当たりなどが悪化しているからだろう。
特に社会の最底辺で生きる彼らには、その影響は直結する。
それが、スリなどの犯罪行為へと繋がって行っているのだろうか。
イタリアにも数十万人いると言われているロマ達。
ローマ中心街にいるのは主に女性のロマ。おばあちゃん、お母さん、そして子供だったり。
彼らは物乞いをしたり、最悪、スリを行ってくる。
彼女らは見た目に分かりやすい格好をしているのですぐにロマと気付くことができる。
ロマの女性の外観は特徴的で、主に:
- 髪の毛が長く、左右に三つ編みにしている
- カラフルな民族衣装を身につけている。(だいたいにおいて長いスカート)
- 顔立ちが東欧系か浅黒い
- スカーフを被っていることが多い
しかし、若い女性ロマなどはジーパンにジャケットなど普通の格好をしていることも多い。
スリをするときは、2、3人のチーム戦で行う。
典型的な手段は、前で気を引いておいて、後ろの人がスルといった感じだ。
なかなか注意していても、人間の心理をうまくついてくるので防ぐのは難しい。
多額の現金は持ち運ばないように。それか、お腹に巻く隠しポケットが有効だろう。
男のロマは民族衣装を着ていなく、ジーパンにジャケットやTシャツなどの格好をしている。
彼らも、スリをするので注意が必要だ。
彼ら、彼女らの手先は天才的な技術を要しているので、「自分は大丈夫」とは絶対に思わない方がいいだろう。
ロマの収入
しかし、ロマの生活の収入はスリだけなのだろうか?
もちろんそんなことはない。前述したとおり、歌や踊り、馬のブリーダーや薬草売り、占いなど。
また近代では鍛冶屋に金属加工、研ぎ師、塗装工、板金屋、工芸品製作などもしているとある。
しかし、大量生産大量消費の現代、彼らの行える仕事は激減した。
今ではロマ達は街の郊外の方へ行き、ゴミ箱漁りや、リサイクル品など売れるものを拾っている姿をよく見かけるのだった…。
今となってはロマ達はただの社会の片隅に埋もれてしまった存在なのだろうか?
しかし今でも音楽演奏などをしているところを見かけるときがある。
イタリアではメトロやトラムなどに乗っていると、どこからともなく彼らはやってきて、音楽を演奏して小銭を稼いでいる。
これは俗に言うバスキングに近いが。(→路上パフォーマンスのこと。)
また子供一人でも路上で演奏している時もあれば、スピーカーに音源を繋いでコンビでバイオリンやアコーディオンを演奏している時もある。
しかし、年々メトロやトラムでは取締りが厳しくなってきて彼らの行き場が失われつつある。
ロマが嫌われるのも、一つに彼ら自身の振る舞いのせいかもしれない。
基本的に礼儀がなく狡猾だったり、お金をあげても「これだけか」と顔されたりする。
ゴミをそこら中に捨てるし、マナーもあまりなくふてぶてしいと思うことさえある…。
ロマの宗教と言語
宗教
かつてはヒンドゥー教だったと考えられている。
しかし、長く旅し、流れ着いた土地の主流の宗教に改宗していることが多い。
東欧では東方正教会、カトリック、まはたイスラム教に。
西欧ではカトリックやプロテスタントに。
また独特の神秘主義的な風習も持っている。
言語
言語についてはロマにおいて、3つの大きなグループと、13の言語が確認できるそうだ。
それぞれにグループが違うロマ間では意思疎通は難しいようだ。
また定住した各地の言葉も取り入れながら、それぞれのロマ達はそれぞれに進化している場合も多い。
この問題を解消すべく、その後に開かれた「世界ロマ会議」で、標準ロマ語が制定された。
嫌われつつも多大な文化貢献をしたロマ
ロマやジプシー達がいなければここまで発展しなかった音楽文化も多い。
その一つに、スペインのフラメンコは有名だ。
またバルカン半島のクレズマー音楽を熟成させたのもジプシー達のおかげだ!
そしておそらく多くの人が知っている曲はこれだ!
「Zigeunerweisen」(ツィゴイネルワイゼン)
さまざまなアーティストによってもカバーされ、日本でもその知名度は高い。
この曲を作曲したスペインの音楽家、パブロ・サラサーテ
彼もジプシー音楽に影響を受けてこの曲を作曲したとある。
曲のタイトル『ツィゴイネルワイゼン』とは、『ジプシーの旋律』という意味だ。
放浪の民はロマだけではない
ヨーロッパにも実は伝統的に放浪生活をしている者達がいる。
彼らは「トラベラー」と呼ばれる。
アイルランドの「アイリッシュトラベラー」
スコットランドの「スコティッシュトラベラー」
彼らのルーツは定かではないが、数百年以上の歴史があり、また前述したロマとは全く異なることだけは確かだ。
イギリスの圧政や飢饉により、行き場を失ったアイルランドやスコットランドの人たちの放浪した末の子孫とも言われている。
また、「イェニシェ」と呼ばれるケルト人系と思われる放浪者たちも存在する。
また各地域に散らばったロマにはさまざまな名前がある。
「ギタノス」と呼ばれたり、「ヒターノ」、「ツィンガニ」、「シンティ」、「ボエミアン」、「アシュカリー」、「カーレ」、「ドム」、他にもいろいろな名で呼ばれていたりする。
これは、旅に出た時期や出身場所が若干異なり、またその後にどういうルートでヨーロッパにまで辿り着いたかで、それぞれ変わってくる。
その中で「ロマ/ロマニー」(Roma/Romany)とは、インドに端を発する彼ら民族の多数派の正式名称だ。
そして、「アイリッシュトラベラー」、「スコティッシュトラベラー」、「イェニシェ」も含めて、
これら全ての総称が「Gypsy」(ジプシー)となる。
しかし、ジプシーとは前述したがイメージが悪く、犯罪者や麻薬密売人、空き巣、スリなどの代名詞にも使われている。
その為に、彼らはちゃんとした名前で呼ばれることを好むのだった。
毎年4月8日は世界ロマの日!
1971年4月8日。この日ロンドンで、第1回「ロマ国際会議」が行われた。
ロマの人権向上や、ジプシーという名は差別語であると決められ、「我々はロマである」という宣言が行われた。
そして1990年の同日には「世界ロマの日」が制定されたのだった。
これはロマの旗
上部の青は空を、下部の緑は大地を意味する。
中央部の16本の輪は動きと進歩を表すそうだが、インドからの出自を象徴するためにインド国旗の「Ashok Chakra」(24本の法輪)に似せてある。
*ヨーロッパにおいて、ロマの人たちはルーマニアに数多く居住する。(推定150万から300万人とも)
そして英語でそれらを綴った場合、酷似する。
- ルーマニア(Romania)という国名と、
- ロマ(Roma)
しかしこれらは全く関係がない。
またイタリアの首都ローマ(Rome/Roma)とも全く関係がない。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
日本には存在しないだけに、なかなか分かりにくい彼らの存在。
だけれど、「ジプシー」という言葉は、ファッションに使われていたり、歌のタイトルになっていたり、実際にはさまざまなところで使われていますよね!
しかし現実には、厳しい状況に置かれている彼ら…。
ろくに戦時中の迫害された補償を受けることもなく、未だに続く根強い差別に嫌悪。
彼らが安堵して暮らせる日が来ることを願って+*
みなさんも海外旅行の際には、ぜひ彼らの文化や歴史にも着目してみてくださいね。