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挫折!人生の底部で見出したもの。パンドラの箱の中身とは…!?

アフリカの旅

ドゴンの国を出た後は、隣国ブルキナファソへと入った。

そこの首都ワガドゥグーまで辿り着いた。

この街は閑散とした雰囲気で、首都なのに全体的に活気があるといった感じではなかった。

しかしバマコのように土埃が立つと言う訳ではなく、アスファルトで舗装された道はよく整備はされていたが。

ブルキナファソ、首都ワガドゥグー

ブルキナファソの首都ワガドゥグー

雄生とは別れ、望と二人きりだ。

雄生がいなくなると、フランス語が全く分からなくなった。

バス一つ乗るのにも苦労するが、今はその苦労を楽しみたかった。

雄生がしていたように色々な人とコミュニケーションを取ってみようと思うが、無理して自分を持ち上げても疲れるだけだった。

今はまだ自分がわかっていない。慣れない事をしたところで、それが本当に自分の内から出る純欲でなければ、そこに喜びはなかった。

 

ならば、自分の興味のある事に挑戦してみようと、手芸でもしてみようとした。木の枝を拾ってきて仏像を掘ってみた。上手くいかなくてすぐに飽きてしまったが…。

 

雄生と別れたはいいが、結局は元の自分のままであり、その先に行く手がかりさえつかめなかった。

放心して街を歩いているとクリスマスが近い為か、イルミネーションが施された建物や、大きな買い物袋を持った親子と出遭った。

ここアフリカの奥地でも、キリストを祝う習慣があるらしい。

異国の風に吹かれながら過ごすクリスマスは何度目かで、毎度新しい地に行こうとも、新しい文化に触れようとも常に存在するそれは、いかに西洋の力が強かったかを示すもので畏敬の念さえも感じた。

 

しかしだからといって僕が何かをするわけでもなく、今は闇雲に街をプラプラするだけが日々の日課だった。

僕と望は数日間滞在した後に次の街へと向かった。

 

ここからは珍しく列車が出ていて、僕らは一気に南下してコートジボワールの旧首都と呼ばれるアビジャンへ向かった。

西アフリカの旅。ここまでの足取り

一気に移動したのは、北部のコートジボワールは治安があまり良くないと言われていたせいもあった。

今回も1000km近くの大移動だったが、列車での移動はとても楽であった。

セネガルからマリへと移動した同じく1000kmの道のりとは雲泥の差だった。

試練!60時間のバス旅…、古都バマコを目指して三千里!

 

ここまで来ると、もう目の前には大西洋が広がっている。

僕らは久しぶりに見る海にテンションが上がった!

回想:旅のパートナー望(のぞみ)との出逢い

望はとてもボーイッシュな女性だった。

彼女と最初に出逢ったのは、僕が旅出たばかりの時でインドでだ。2006年の事だ。

 

安宿のドミトリーでベットが隣同士だったのがきっかけで話をし、当時流行っていたSNSのmixi(ミクシー)を交換した。

女性の一人旅で、見た目は突っつきにくく怖いイメージがあったが、話してみると優しいお姉さんだった。歳は僕より二つ上だった。

彼女は、僕なんかよりもずっと濃い旅をしていて、持ち前の好奇心とハッタリで危険な綱渡りもたくさんしているようだった。

気が強く、物事をズバリという辛口なところがあるが、実は繊細で優しくとても人情味溢れる人だった。

 

旅の途中で出来た彼がイギリスのロンドンにいて、彼女は僕とインドで別れた後はロンドンに行きm彼と共にしばらく暮らしていた。

その後も何かと連絡を取っていたりとご縁があった。

もし、同性だったら良き悪友になっていたであろう(笑)

 

象牙海岸の奇跡の街・アビジャン

アビジャンはとても栄えた街だった。大きなビルがたくさん建ち並び、今までいた国々とは明らかに違っていた。

セネガルのダカールが西アフリカのニューヨークと呼ばれていたのならば、ここはとりわけカリフォルニアだろうか。

ダカールは小さな土地に多くのビルなどが建ち並び混沌としていたが、ここアビジャンは広々としていた。

海からの風が気持ちよく、巨大なビルやよく整備された街は、ここがアフリカなのだというのを忘れさせた。

アビジャン

コートジボワールとはフランス語で、「象牙海岸」という意味だ。

英語名ではアイボリーコーストと呼ばれ、やはり意味は「象牙海岸」だ。

その名の示す通り、ここから歴史上多くの象牙が外国に輸出されたそうだ。

 

そして、他の多くの西アフリカの国がそうであるように、この国もまた1960年代にフランスから独立した。

選出された大統領は、親仏、親欧路線を取り、外国産業を積極的に取り入れてきた。

任期5年の大統領はその後7度も再選し、国民からの厚い信頼と信用で、安定した国作りを行った。

その結果、経済は栄えGDPの急成長と国民の所得も増え、「象牙海岸の奇跡」とさえ言われるほどに繁栄した。

 

他のアフリカの国々は政治が安定しなく、経済も成長できなかった。その中でコートジボワールはアフリカの優等生であった。

しかし、その大統領も93年に亡くなった。そ

の後の政権は安定しなく軍事クーデターが起きてしまう。また極右的な民族主義者の反乱によってこの国は内戦状態となってしまう。

今まで順調だった経済はストップし低迷の時代を迎えるのだった。

 

今、(この2007年当時)見ているこの国、ここアビジャンの姿は少し廃れ、全体的にくたびれた感があったのはこの為だった。

国というものは、そのトップに立つものが誰かによってまさに良くも悪くも変わるものなのだなと改めて見せてくれたのだった。

アビジャン。多くのビルが建つが、寂れた感があるのも否めない。

人生最大の失態と失望

そんなアビジャンの街と重なるように、落ち行く自分を見ていた。

僕はどう進めばいいのだろう?

しかし答えを探しても何も見つからない。時間だけが過ぎていく…。

上手くいかない自分、強がる自分、不完全燃焼な自分。それらはフラストレーションとして確実に自らの内に溜まっていた。

どうすればいいのか分からないが、しかし答えは探したところで簡単に出はしない。

 

僕はある時に、その自らの内にあるフラストレーションを望にぶつけてしまった。

望にチクっとする事を言われ、図星だから何も言い返せず、しかし悔しかった。

僕はそのまま望にブチ切れて叫び散らしてしまった。

自らの内にある憤りが爆発したのだった。

頭が真っ白になり、理性が効かなかった。イライラし半分ヤケでもあった。

そのまま彼女をベットに押し倒し襲おうとした。

望もびっくりして抵抗した。

怒りや悲しみ、妬みや焦り、すべての内にあるネガティブな感情が吹き出た。

何をしたいのかも分からない、ただただ悔しかった。それが望を襲う、ただその行動だけとなっていた。

僕は今の自分を表現するにはこうするしかなかった。そんな自分が悲しかったが、もう止められなかった。

僕らはしばらく押し問答のやり取りをしベットの上で格闘していた。

そして望は『やめろっ』と鬼気迫る声で僕に迫ってきた。そして噛まれた。望は僕の手をありったけの力で噛んできた。

痛みが手から脳へと駆け抜け、僕の中に残っていた僅かな理性がそこで歯止めをかけた。

手には大きな歯型がくっきりと残り、僕らはしばらくベットの脇で、ふー、ふーと肩を鳴らしていた。

パンドラの箱

その後冷静に戻った僕は、望に謝った。

平謝りだ。とんでもないことをしようとしてしまった….。

彼女は今までの僕の様子から事の次第を理解してくれ、大ごとにはならなかった。

 

しかし僕はひどい事をしてしまったと、自分自身に最大限の失望をした。

心から深く詫び、今までにないくらいに落ち込んだ。人として、男として最低の事をしてしまったのだった。

取り返しのつかない現実に、僕は謙虚にそれを受け入らざるを得なかった。

出てくるのは溜息と、自分も最低な人間の仲間入りをしたという深い悲しみと絶望だった。

自分自身の不甲斐なさに涙した。

僕はこの先どうすればいいのだろう…。

 

海辺で夜空を眺めながら、部屋には戻れずひたすらに途方に暮れていた。

今まで出逢ってきた人々、与えられてきた愛情、掛けてもらった言葉達を思い出す。

その中で、友達の一人が教えてくれた言葉を思い出した。

『まずは自分のありのままを認め、受け入れてあげる事だよ。』

それを聞いた当時は分かったようでよく分からなかった。

 

しかし、今変えようの無いこの現実を見て、僕は自分の弱さや欠点を純粋に受け入らざるを得なかった。

もう強がったところで何も意味をなさない。それはとても辛い作業だった。頑固だった自分の最後のプライドも崩れ落ち、自身の小ささ、弱さ、卑屈さ、未熟さ、全ての自分の負の面が迫ってきた。

それはまさにパンドラの箱を開けたようで、ありとあらゆるネガティブな感情に襲われた。

自分に生きている価値があるのかと不安が襲い、惨めになり、深い悲しみと絶望感でしかなかった。

自分が悔しくて悔しくて仕方がなかった。

 

どうしようも無い現実と自分とを向き合い、心身ともに疲弊した。

僕は結局、ダメなやつだ…。それを素直に受け止めたのだった。

僕はもう何者でもなくなったのだった…。

落ちるところまで落ちた。

涙ももう出ない。ただ海を見つめる。もう何も考えられない。

ヤケを通り越して、呆然とした。

時間だけが流れていった…。

『あぁ…。』

放心状態であった。

………

………

………

………。

 

しかし、次の瞬間、ふと思ったのだった。

『………変わろう』

今、落ちるところまで落ちて、ここは自分の人生の最低地点だ。

『そうか、ここからはもう落ちようが無い。これからは理想の自分を目指して上っていこう!』

 

そう思った瞬間に、不思議と目の前がパッと明るくなり、ググッと今までに感じたことがないくらいの強い力が心に漲った。

それは、衝動だった。

それは、明るく輝きに満ちていた。

それは僕に無限の力を与えるものだった。

そう、それはまさに「希望」だったのだ。

 

「パンドラの箱」

伝説では、それを開けるとありとあらゆる災いが世界に解き放たれたが、その箱の中に最後に残っていた物、それは「希望」だった。

そう伝えられている。

『この漲る力はなんだ?』

恐らく、地獄や絶望というものにはどんなに悪くても底があるだろう。

しかし天国や輝き、希望といったものにはきっと際限がない。この希望という力は、天のどこまででも昇っていけそうな無限な力な気がした。

うん、僕は変われる!今までの自分を脱却し、新しい自分を歩もう!

新しい扉の手がかりはここにあった。全ては自分の内にあったのだ。

何かが始まる。大きな大きな何かが。

そんな夜明けの感覚を、この瞬間手にしたのだった。

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