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アムステルダムの郊外、ボクは道路の路肩に立ち、親指を挙げて立っていた。
もう片方の手にはサインボード、そこには『Berlin』(ベルリン)と記して。
天気は晴れ、5月の気持ちいい風が吹いていた。
ヨーロッパで初めての一人でヒッチハイク。不安がなかったといえばうそになる。
けれども、それ以上に未知なる冒険の予感にボクは心を震わせていた。
目次
初めてのヒッチハイク
ボクにとってヒッチハイクの経験はほとんど無かった。
旅に出た最初の頃、東南アジアを3ヶ月周って、中国と韓国に寄り一時帰国をした。
その時、韓国の釜山(プサン)からフェリーで長崎に渡り、そこから埼玉の実家までヒッチハイクで帰った。
それがボクの初めてのヒッチハイクの経験だった。
やり方も、方法も何をどうしていいかわからず、ただ勢いと好奇心だけだった。
映画で見たような『道路で親指を挙げる』そのイメージだけだった。
長崎へのフェリーの中で隣りだったおじさんがボクの冒険に興味を持ってくれて、その後、港から大通りまで彼の車に乗せてくれた。
それがボクの初めての人と言えるかもしれない。
その後はそこの通りでとりあえず、イメージ通り親指を挙げてみた。
こんなんで停まってくれるのだろうか?不安が大きかったが、5分ほどして軽自動車が停まってくれた。中には男性が一人が乗っていた。
彼は大学生だった。
「サインボードを持ち、行き先を書いた方がいいと思いますよ」と提案してくれて、そのまま百均に連れていってくれ、紙とペンを買ってくれた。
少しひ弱な感じの人だったが、心優しく、最後までボクのことを気にかけていてくれた。
次に乗せてくれたのは、自分も旅をしていたという30後半くらいの男性だった。
日焼けし、無精髭が生え、頭にタオルを巻きワイルドなガテン系の雰囲気を醸し出していたが、飲食店を営んでいるという。
『口琴』と呼ばれる不思議な音色のする楽器を見せてくれた。当時まだまだなにも知らなかったボクには興味津々だった。
彼の話は、これから世界を旅しようと野心に燃えていた自分にとって聞いていて面白かった。
ますます旅する意欲を注がれたのだった。
そうして何台か乗り継ぎ、あれよあれよと九州を抜け、本州にまでたどり着いた。
なかなか乗せてもらえずに四苦八苦したり、途方に暮れることもあった。
正直どうしていいかわからずめげそうな時もあった。
そんな中優しくしてくれる人と出逢うと元気をもらえる。
夜のコンビニではオーナーが気にかけてくれ廃棄のおにぎりやパンを分けてくれたりもした。
優しさが身に染みた。
そうしてボクは無事に東京まで戻ってくることができたのだった。
海外でやるヒッチハイク
しかし、これらの冒険も、やはり安全な日本でやるのは比較的簡単に思えた。
ボクは、旅を続ける中で、普通に旅することに慣れてくると、より有意義な旅がしたい、と思うようになっていった。
そこでヒッチハイクにすごく興味があったのだが、海外で一人でいきなりやるのは怖かった。
そんな折に出逢ったのが彼、ゆうきだった。
ゆうきはボクと出逢った時、ヨーロッパを大道芸で周り、ヒッチハイクと野宿で旅をしていた。
ボクは一緒にヒッチハイクさせてくれと彼に頼んだ。
彼は気さくに「いいよ!」と言ってくれ、そこから少しの間、ヨーロッパを周るヒッチハイク旅を一緒にしたのだった。
ウィーンープラハーアムステルダムと行った。
そして仲良くなった僕らは、その後にアフリカへと一緒に行ったのだった。
そこでボクは人生の大きなターニングポイントを迎えることとなった。
*今現在のこの記事は、そのアフリカから戻ってからのストーリーを綴っています。
いざベルリンへと
そんなわけで、若干の経験はあれど、海外で、ヨーロッパで一人でヒッチハイクをするのは初めてのことだった。
けれど、アフリカでの経験はボクをひと回り以上大きく成長させてくれ、またクイーンズデーの夜のあの経験はボクに何かを目覚めさせてくれた。(→#3「クイーンズデー」)
今回の旅でそれら自分の中で悟ったことや、愛の本質について実証してみたかったのもあった。
オランダを抜け
いざヒッチハイクを開始すると、割とすぐに乗せてもらうことができオランダを抜けれた。
もともと小さな国土なので、あっという間だった。(オランダの大きさは九州と同程度)
トラック運転手のベン
短い距離を乗せてもらいどんどんと乗り繋いできたが、ドイツに入りたての時にあるサービスエリアで話しかけた男性、彼は人懐っこく優しい目に笑顔で「もちろんいいとも!」と快く乗せてくれた。
ここまでオープンに接してくれる人もなかなかいないのでボクはとても嬉しかった。
彼は一気にベルリンの近くまでボクを乗せて行ってくれた。
長距離のトラック運転手で、名をベンと言った。
疲れているはずなのに、終始笑顔だったのが今でも印象的だった。
あいにく彼はそこまで英語が喋れずに、僕らは感覚と感情だけでやりとりをした。
終始笑顔を絶やさずに、ボクにずっと気を使っていてくれるベン。
途中休憩し、カフェを奢ってくれた。
その優しい彼だが、その裏にあるであろう苦労、世知辛さ、人生の中でおこる様々な問題。
笑顔の裏にある影がボクには感じられ、それでも一生懸命に通じない言葉でなんとか語ろうとし接してくれる彼。通りすぎる一介の人間に対しても最大限に与えてくれる愛情、ボクは彼に対して人間としての深い敬愛の念を抱いたのだった。
野宿の夜
夜になって、ベンはサービスエリアでボクを降ろしてくれた。
ここからベルリンまでは、もう100kmほどで着く距離だという。
そしてボクらはここでお別れだと彼は言った。
たった数時間ほどの出逢いだったが、なんて温かい気持ちにさせてくれたのだろう。
ありがとうベン。そして良い人生を。
そう言って別れ、ボクは去りゆく彼のトラックをいつまでも見送っていた。
サービスエリアでの出逢い
さて、ここのサービスエリアにはガソリンスタンドも併設されていた。
小さなショップがあり、簡易フードにコーヒーも飲めたりした。
ボクはそこで引き続きヒッチハイクを試みた。
すると、そこにボクと同じくバックパックを傍に持った、少し大柄の男性が現れた。
彼はボクが挨拶するも、無愛想に返し、無口にたたずんでいた。
そして車がやってくると、彼は、窓ガラスの掃除を必要かどうかドライバーに尋ね、それを買ってでた。
窓掃除用のワイパーも自前で持っていて、それを使って慣れた手捌きでどんどん窓ガラスを綺麗にしていく。
そしてドライバーたちは彼にチップを渡していた。
ボクは興味津々で彼にいろいろと尋ねてみた。彼は、低く小さな声でそれらを話してくれた。
すると彼はここに(このサービスエリアに)2ヶ月前からいるらしい….(驚)!!!
毎日、窓掃除をしてチップを得ているとのことだった。
チェコ出身と言っていた。
夜は近くの場所で野宿しているらしい。
彼の歳は20代なかばに見えた。
興味深かったが、ボクはそれ以上は聞かなかった。
なんでこんな事をしているとか、ここにずっといてどうするのだとか、この後何をするのだとか、きっと話せば話すほど聞きたくなるし、この特異な状況をジャッジしてしまいたくなると思った。
それはきっと日本や欧米の視点から見た価値観だし、「常識」という多数決によって作られた枠組みだと思う。
これはボクの憶測だが、彼もまた生活困窮者なのかもしれない。
きっと国に仕事がないのだ。また実家などにいれない状況があり、仕事もないのだ。(日本のようにバイトでも仕事がたくさんある国は稀だ。)
窓掃除をしてチップをもらっているのは、僕ら日本の感覚では物乞いに近いかもしれないが、彼らからしたら人の役に立ちお金のもらえる立派な「仕事」なのだ。
そういう人はヨーロッパの路上にたくさんいる。
彼は旅をしているというよりか生きるためにそこにいた。そうしてたどり着いたのがサービスエリアでの窓掃除だったのだろう。(確かにここには他にライバルとなる人もいないし…!)
国や立場、状況、色々とあるだろうけれど、今彼と心が通じ合える、それだけで十分だった。
寝る場所を探して
彼は次第に心を許していってくれた。
ボクとしても初めての野宿の夜に、誰かと一緒に過ごせるのは心強かった。
彼は、自分がいつも寝ているという場所へと案内してくれた。
それはサービスエリアから少し歩いた先で、茂みになっている場所だった。
彼はボクにそこを案内すると、自分はどこか他の場所で寝ると言って暗闇に消えていったのだった。
そして旅は続く
次の日の朝、ボクは目を覚ますと、サービスエリアに戻った。
あたりを見渡したが、昨日の彼の姿は見えなかった。
どこかでまだ寝ているのかな。
最後にまた会えればと思ったが、その後再び彼と会うことはなかったのだった。
ボクは気合を入れ直した。
今日はベルリンにたどり着くぞ!